クレソン一級建築士事務所(前編)

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々28〉
「人生が豊かになる、心地よい〝居場所〟をつくる建築家」(前編)
クレソン一級建築士事務所 大内 萌さん

源兵衛川に面したウッドデッキに腰掛ける大内さん

今回は、完成したばかりのクレソン一級建築士事務所・大内萌さんのご自宅にお邪魔しました。 場所は静岡県三島市。富士山の湧水が流れ、地域の人々に愛されている源兵衛川のほとりです。

延床面積85㎡のワンルーム空間は、ハイサイドライト(高窓)から注ぐ光に満たされ、川に開いた大きな窓が季節の移ろいを室内に映し出します。そして、川に面したいちばん気持ちのいい特等席には、造作したソファとダイニングテーブル、そしてekrea Partsの「キッチン・キット」でつくった壁付けキッチンが。

くつろぐ家族、仕事をする自分、そしてカフェに訪れたが、隣り合って心地よい時間が過ごせる〝居場所〟が散りばめられた魅力的なお宅を、前編後編に分けて詳しくレポートします。

娘の出産を機に家づくりを決意。移住イベントで理想の土地との出会いが

源兵衛川に面した細長い敷地の魅力を最大限に活かしたプラン

大内さんは1992年生まれ。京都大学大学院を修了後、清水建設に入社し、巨大プロジェクトの設計に関わってきました。その後、このシリーズにもご登場くださった「藤原酒谷設計事務所」に入所。住宅設計の道を歩み始めます。

「大学院では福祉施設をテーマに選び、入所者一人ひとりが心地よく過ごせる空間づくりを研究していました。大規模なプロジェクトにやりがいを感じつつも、次第に住まい手とコミュニケーションを重ねながら、誰かのための心地よい〝居場所(空間)〟をつくる仕事がしたい、と思うようになっていきました」(大内さん、以下同)

そんな時期、大内さんに2つの大きな出来事が起こります。

1つ目は、長女の出産。子どもを育てるための家を建てようと、土地探しを始めることになりました。

2つ目は、「藤原酒谷設計事務所」への入所です。大学の先輩である同事務所のオープンハウスを見学し、「ああ、こういう仕事がしたい!」と、清水建設を退社して入所することを決めたのです。

当初、土地探しは難航しましたが、知人から「静岡県三島市が子育て世代に人気らしい」と聞き、移住フェアに参加。すると、ほどなく富士山の伏流水が流れ、洪水の心配もない源兵衛川のほとりの土地に出会い一目ぼれ。

設計事務所に所属しながらの家づくりがスタートしました。

プランはレーモンド自邸を模した名建築・旧井上房一郎邸を参考に

旧井上房一郎邸(大内さんのInstagramより)

大内さんの夫も清水建設の設計士。家づくりはふたりでアイデアを出し合ってスタートしました。

「映画『人生フルーツ』に登場する津端邸(※日本のモダニズム建築の礎を築いた建築家、アントニン・レーモンドの自邸を模したもの)や、同じくレーモンド自邸にならって建てられた旧井上房一郎邸に心をつかまれ、いつかハイサイドライトのある一室空間の平屋に住みたいねと、ふたりで話していました」

大内さんが設計初期に描いたスケッチ

    

レーモンドの自邸のよう、平屋の長手方向に庭とつながる大きな開口がつくれる土地を探していましたが、ついに出会った土地は、短辺側に川の美しい景色が広がり、長辺の両側は家が迫る細長い敷地。

「『あっち(長辺)ではなく、こっち(短辺)か〜!』って思いました(笑)。でも、こっちの景色がこんなにいいのなら、レーモンド自邸の思想とこの土地の個性を掛け合わせて、木架構が美しいトンネル状の一室空間にしようと、基本プランが決まりました」

では、さっそく、出来上がった住宅を見ていきましょう。

室内には延床面積85㎡の明るく伸びやかな空間が!

外壁は木々や空の色に映える臙脂(えんじ)色に

写真は道路側から見た外観です。一見、大きな家に見えるかもしれませんが、延床面積はファミリータイプのマンションとさほど変わらない85㎡。

臙脂色のガルバリウム鋼板に、木製の窓枠が美しいアクセントを添えています。屋根の勾配に呼応するような台形の高窓が、建物に与えるのはどこか親しみやすい表情。

「家をプランするにあたり、自宅としての機能のほかに、仕事場(アトリエ)とカフェを併設しようと計画していました。ですから、『この家なんだろう?』と気にかけてもらえるよう、高窓の形も可愛らしくデザインしました」

ドアを開けると、連続する木架構の先にピクチャーウィンドウ!伸びやかな空間が広がる

そして、玄関ドアを開けて中に入ると、伸びやかな空間が目に飛び込んできます。室内には柱はありません。地元の杉材を使った木架構を910mmピッチで並べることで、トンネル状の伸びやかな空間が生まれました。

手前のモルタルの土間は、カフェスペース、その先40㎝上がった塩ビのタイル敷きの場所がアトリエ(設計事務所)のスペースです。

「実は、以前勤めていた設計事務所にもカフェがあったんです。鈴が鳴ると仕事の手を止めて『はーい』って、コーヒーを淹れにいっていました。窓を見て『この家に入ってみたいな』という人も、カフェがあったら入りやすいかなと思って。『設計事務所って、こんな感じなんだぁ』と知ってもらえたらうれしいですね」

南側のハイサイドライトから家じゅうに光が降り注ぐ

この家の長手方向(南北)には、隣家が迫っているため、窓はありません。その代わりに、南側にハイサイドライトを設け、あとはワンルームの空間に。

「南側に設けた箱の中に、水回り、収納、納戸をぎゅっとまとめました。土間から納戸を経由して奥の居室スペースに行ける動線もあります。上部には幅約11mのハイサイドライトを設置。その下には、いろいろな使い方ができる、おこもり感のあるロフトがあります」

箱の壁に洗面台も収納!

箱の外側には、アトリエの資料を収納する棚と、洗面台を設けました。ちなみに洗面手前の白い布カーテンの奥は寝室。LDK以外の必要な空間と機能がすべてこの箱に集約されています。

居室空間にも、自然を身近に感じる居心地のいい場所が随所に

アトリエから居室スペースを見る

アトリエスペースの先には、LDKがあります。ダイニングとリビングのスペースは、床を一段上げることで、緩やかにゾーニングしています。

箱に隠れて、カフェスペースからは見えないリビング

ダイニングの床にはラワン合板を張りました。一方、箱の死角になってカフェ側からは見えないリビングの床には、廃盤になり安く分けてもらったというタイルカーペットを敷いています。

大きな開口の外には源兵衛川のせせらぎが!

ソファがある場所は、この家のいちばんの特等席。窓の外には源兵衛川の水面がすぐ目の前に広がります。

「川がきれいに見えるよう、建物をできるだけ川側に寄せました。外のウッドデッキの奥行きは1mほどしかありませんが、お茶をしたり、川を眺めながら足をぶらぶらさせたり…とても居心地がいいです」

さらに窓辺の立ち上がり、サッシと障子の桟(さん)がある場所も、景色を楽しむベンチを兼ねています。限られた空間の中に、居心地のいい居場所がたくさん生まれました。

リビング側からキッチンを見る

写真はダイニングとリビングです。ダイニングテーブルは造作。天板にはDIYで防水性の高いモールテックスを塗装しました。

そして、キッチンはekrea Partsの「キッチン・キット」を採用。面材にはダイニングの床と同じラワン合板を張ることで、インテリアに美しく馴染むキッチンに仕上げています。

「キッチン・キットのI型(W2400mm×D650mm)とキャビネット(W1540mm×D650mm)を横並びにしました。使いやすく空間にもとても合っていて満足しています」

大内さんが気に入っているキッチンの詳細は、後編で詳しくレポートします。

後編に続く

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