造作を“強味”にして、つながるすべての人の暮らしを豊かにする工務店(前編)

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々14〉
造作を“強味”にして、つながるすべての人の暮らしを豊かにする工務店(前編)
相羽建設株式会社 工事統括・渡邉拓也さん 設計担当・松本翔平さん 広報統括・伊藤夕歩さん

小泉誠さんがリノベーションを手掛けた、相羽建設本社1階のショールーム(撮影:西川公朗)

今回ご紹介するのは、従来の工務店の枠を超え、街づくりや家具製作など、様々な分野に挑戦し続けている、相羽建設株式会社です。

いち早くOMソーラーハウスに注目し、2000年には、建築家の永田昌民さん、伊礼智さんと「ソーラータウン久米川」で街づくりに挑戦。その後も、「i-works」や、「木造ドミノ住宅」、「舎庫」など、時代が求める「家」を発表してきました。

キッチン、洗面、家具…作り込むことを厭わず、すべての人の暮らしを豊かにしようと取り組む理由、そして造作することへの思いを前編・後編の2回に分けてレポートします。

相羽建設の家と家づくりを体験できる「つむじ」

地域の交流の場にもなっている「つむじ」

まず、伺ったのはモデルハウスが3棟建つ「つむじ」。広報統括の伊藤夕歩さんにご案内いただきました。

ちなみにこのモデルハウスが完成したのは2016年だそう。ですから、家具や仕上げの経年変化した状態も確認できます。

i-worksモデルハウスのアプローチ

最初に見学したのは、人気建築家・伊礼智さんが、住宅設計のディティールを「標準化」し、質の高い家づくりを目指して誕生した i-worksのモデルハウス。

こちらでは、家の中に「心地よい居場所」がたくさん作れること、素材や造作家具によって、愛着が深まっていく家になることが体感できます。

造作家具が馴染むリビングダイニング

1階のリビングダイニングに入ると、伊礼さんデザインのソファやダイニングテーブル、キャビネットが出迎えてくれます。ひとつ一つの家具が、床や壁の仕上げと調和し、居心地のよさを醸し出しています。

これらの家具は、大工とデザイナー(建築家)、工務店が手仕事で協業する「わざわ座の『大工の手』」によるもの。

キッチンはi-works標準仕様で造作したもの

上の写真は、玄関からもLDKからもアクセスできるキッチン。骨格部分と収納は大工が造作、扉や引き出しは建具職人が製作しています。

シンク下やコンロ下はあえてオープンに。使っているうちに汚れやキズが目立ちやすくなる、扉の取っ手部分は、濃い目の色で塗装した堅木を張りました。

建てられて10年が過ぎたキッチンは、使い勝手はそのままに味わいを増し、美しい家具のようです。

小泉誠さんとの取り組みから生まれた「わざわ座」「大工の手」の活動

小泉誠さんが考案した舎庫の外観(撮影:小泉誠+KoizumiStudio_)

i-worksのモデルハウスのすぐ隣には、小屋のような建物が建っています。こちらは家具デザイナーの小泉誠さんが考案した「舎庫」。床面積は6畳ほど。車庫のスペースに設置できることから、この名称が付けられました。

「舎庫」の内部は、随所に大工の手仕事が(撮影:小泉誠+KoizumiStudio_)

コンセプトは「小さな居場所」。書斎やアトリエ、ゲストルーム…、住まい手が欲しい居場所を、建築確認申請なしで建てられることもあり、注目が集まっています。

施工が比較的簡易な杉パネル工法で建てられた建物の内部は、随所に大工の手触りが感じられる空間。

雨戸を手前に引くとワークスペースに!

ダイニングテーブルにも座卓にも使える大きなテーブル、跳ね上げれば雨戸になる窓際のワークスペース…、すべて大工の手による造作です。

実は、相羽建設と小泉誠さんのある出会いから、「わざわ座」「大工の手」の活動が始まり、「舎庫」もそのひとつの製品として誕生したものです。

新築とは違うリフォームの魅力が体感できる「あいばこ」:(撮影:Nacása & Partners Inc)

「2011年に、メンテナンスやリフォームの拠点となる『あいばこ』を作ることになりました。そのとき伊礼さんに紹介してもらい、小泉誠さんに内部のデザインお願いすることになったんです。初めての取り組みでいろいろありましたが、造作することで、素晴らしいモデルルームが出来上がりました」(伊藤さん)

このモデルルームが「わざわ座」「大工の手」誕生のきっかけになった(撮影:Nacása & Partners Inc)

このとき、小泉さんが「ひとりのデザイナーとひとつの工務店が、こういうものを作っていても、あまり世の中は変わらないし、影響力は薄い。それをネットワークというか、みんなでやれないか」と言ってくださったんです」(伊藤さん)

「大工の手」の活動初期に開かれた展覧会(撮影:小泉誠+KoizumiStudio_)

これが契機となり、大工が家具を作る活動を、現代の“民藝運動(大工の手)”にしようという話になり、2015年に「わざわ座」が誕生。デザイナーのセンスと大工の技が奏でる、心地よい家具の提案が始まりました。

そして今、「わざわ座」の事務局を社内に置き、伊藤さんが事務局長を兼任しています。

後編に続く

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