ビルダーズ(1回目)
〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々34〉
「建築の力をみんなで共有。理想の住まいを築き上げる設計事務所発の工務店」(第1回)
株式会社BUILDERS 代表取締役 木平岳彦さん 代表取締役 近藤奈々子さん
木平岳彦さんと近藤奈々子さん(事務所の前で)
神奈川県葉山町を拠点に、設計者・職人・施主が横並びで取り組む家づくりを展開する「BUILDERS」。その魅力を3回にわたりレポートします。
共同代表の木平さんと近藤さんの出会いは、建築家・伊東豊雄さんが主宰する建築塾の「大三島プロジェクト」でした。そこで、建築が持つ可能性を多くの人と共有し、ともにつくり上げる素晴らしさを体験したお二人。その手法を家づくりに活かすべく、共同で設計事務所を設立しました。
その後、同じ志を持つ大工や左官職人らとともに、設計から施工までを一貫して行う「設計事務所発の工務店」を始動。図面の上だけでは描ききれない、快適で愛着の育まれる住まいを形にしています。
この記事では、「BUILDERS」の家づくりの原点と、その想いが詰まった1軒の住宅を詳しくご紹介します。
すべての原点は伊東建築塾が手がけた、大三島でのリノベーションプロジェクト
事務所に置かれていた住宅模型
共同代表を務める木平さんと近藤さん。お二人が歩んできた道は対照的です。
木平さんは1972年生まれ。中学卒業後、鉄骨職人としてキャリアをスタート。現場で目にした図面に興味を持ち、独学で設計の勉強を始めました。その後、設計事務所や施工会社での現場監督を経て、32歳で個人の設計事務所を設立。「現場を知り尽くした建築士」です。
一方、近藤さんは1983年生まれ。武蔵野美術大学でインテリアを学び、卒業後は日本を代表する建築家・伊東豊雄さんの事務所へ。大学の学部棟や新聞社の本社といった大規模建築の設計に携わってきました。
そんな年齢も経歴も異なる二人が出会ったのが、伊東豊雄さんが主宰する「伊東建築塾」が監修した、大三島(愛媛県今治市)の廃校(小学校)を宿泊施設へとリノベーションするプロジェクトでした。
2018年4月にオープンした「大三島ふるさと憩の家」(撮影:Katsuhiro Aoki)
「伊東さんが今治市と協力して、大三島にある古い建物を再生させ、新たな宿泊施設をつくるプロジェクトを立ち上げたんです。当時、個人で設計事務所を営んでいた私は、設計だけでは物足りなさを感じていて、塾生として参加を決めました。ちょうど事務所を退職してフリーになったばかりの近藤も、伊東さんに声をかけられて設計チームの一員として加わっていました」(木平さん)
改修の舞台となったのは、昭和31年に建てられた木造2階建ての元小学校。老朽化が進んで雨漏りもひどく、基礎が打たれていないため、床下からカビのにおいが上がってくるような状態でした。
しかも補助金事業のため、期日内に終わらせなければならないタイトなスケジュール。そうしたなか、プロジェクトがスタートします。
「大三島ふるさと憩の家」の食堂 (撮影:Katsuhiro Aoki)
「内部をスケルトンにして、基礎を打ち直すところから始まりました。さらには屋根も葺き替えることに。補助金だけではまったく足りず、協賛企業を回って資材を提供してもらいました。すべて施工会社に発注することはできず、大工や左官職人の塾生たちが隣接する建物に泊まり込んで、施工していったんです」(木平さん)
現場をよく知る木平さんは、昼も夜も職人たちと「あそこはどうしよう?」と膝を突き合わせて議論する毎日。次第に職人たちからも一目置かれ、頼りにされる存在になっていきます。その姿は、ともにプロジェクトへ臨んでいた近藤さんの目にも、同じように焼きついていました。
「私は結構細かいというか、細部のバランスを見ながら図面を描くタイプ。一方の木平さんは、実際に手を動かせる“ものづくり”の現場に近い人。私にはない、野生の勘のようなものを持っている人だなと感じました」(近藤さん)
では、木平さんから見た近藤さんの第一印象はどのようなものだったのでしょうか。
「私はスケッチや模型が苦手なんです。でも、近藤さんはスケッチが本当にきれいで、色使いや組み合わせのセンスが抜群にいい。自分にないものをすべて持っている人だと思いました」(木平さん)
「大三島ふるさと憩の家」の客室(撮影:Katsuhiro Aoki)
出来上がった「大三島ふるさと憩の家」は、趣のあるホテルとして話題に。それだけでなく、地元の人が集まるコミュニティスペースとしても活用されています。
このプロジェクトの終了後、お互いに足りないパズルのピースを補い合うように、二人は「木平と近藤設計事務所」を立ち上げました。
職人たちの知識や経験を尊重しつつ、本当にいい家をつくりたい
事務所で受けた初めての新築「大三島 素泊り茶房 トマリギ」(撮影:Akihiro Furuya)
木平さんは以前から、施主がいて、設計者がいて、施工会社がいて、その下に現場の職人がいるという、建築業界の「縦割り構造」に疑問を感じていたと語ります。
「大工や左官、塗装の職人たちは、その分野において誰にも負けない知識や経験を持っているプロフェッショナル。それなのに、彼らがピラミッドの一番下に位置づけられているのは、絶対におかしいと思っていました」(木平さん)
その違和感は、大三島のリノベーションプロジェクトで日々職人たちと膝を突き合わせて議論を重ねるなかで、確信へと変わっていきました。
職人の知識や経験で、心地よさの質が変わる!
「いいものをつくろうと思ったら、大工の仕事なら彼らの意見を真摯に聞いて設計図を描かなければいけないし、塗装の仕上げなら塗装屋さんの話を聞いて材料を選ばないといけない。設計者が聞きかじっただけの知識で『これでやってくれ』と上から指示するだけでは、絶対にダメだと痛感したんです」(木平さん)
やがて二人の設計事務所には、現場の職人たちがチームとして加わり、設計から施工までを一貫して行う「設計事務所発の工務店」へと発展。職人だけでなく施主までも巻き込み、全員がフラットに力を結集して家をつくる――そんな「BUILDERS」のスタイルが確立されたのです。
それではさっそく、彼らの設計思想が息づく住宅事例をご紹介しましょう。
この土地から生えてきたような、家族の新しい物語が始まる家
庭から見た家の外観(撮影:Akihiro Furuya)
道路側から一段上がった、扇型の敷地に立つ住まいです。そのユニークな形状を活かし、平屋と2階建ての建物をL字型に配置。日常の暮らしと庭が、緩やかに繋がるこの家は、まるでこの土地に深く根を張ったかのような佇まいです。
主役は、ご夫婦と幼い2人のお子さん。施主の願いであった「雨の日でも遊べる家」を実現するため、建物の付け根に設けた三角形のテラスには大きな庇(ひさし)をかけました。天候に左右されることなく、子どもたちがいつでものびのびと遊べる特別な空間です。
「これから始まる心躍る日々に思いを馳せ、お施主様はこの家に『丘の上のホームグラウンド』という名前を付けました」(近藤さん)
地下扱いになる玄関から階段を上がると「工作室」のようなスペースが!(撮影:Akihiro Furuya)
道路に面した地下扱いの玄関で靴を脱ぎ、階段を上がると、まず目に飛び込んでくるのは奥さまが希望していた土間のワークスペース(3畳)です。
壁にはラーチ合板と有孔ボードを張り、ご実家近くの大工さんからプレゼントされたというケヤキの無垢板のカウンターを設置しただけの、シンプルな空間。ものづくりが大好きな奥さまと、お絵かきを楽しむ子どもたちが、思い思いに過ごす「工作室」のような場所が生まれました。
リビング側からダイニング、キッチンを見る(撮影:Akihiro Furuya)
土間スペースを抜けると、30畳の開放的な空間が広がります。柱はありませんが、耐震等級3を取得。そして、窓際には土間スペースを設けました。ここは、グリーンを置くスペースに。
吹き抜けのあるダイニングと壁付けのキッチン(撮影:Akihiro Furuya)
ダイニングの上部には、吹き抜けを設けました。この吹き抜けは光を階下に届けるだけでなく、2階のスタディコーナーや子ども室にいる子どもたちの気配も届けてくれます。
ダイニングテーブルは、木平さんが懇意にしている北海道の製材所から仕入れたキハダを使って造作。オークの無垢床との相性も良く、明るく軽やかな雰囲気を醸し出しています。
その横には、ご実家の和菓子屋さんから持ってきたという什器を、食器棚として置いています。新しい住まいのなかに、どこか懐かしく愛らしいアクセントになっています。
キッチンは造作。階段回りも造作収納が(撮影:Akihiro Furuya)
壁付けキッチンのサイズは、W4890mm×D650mm。ekrea Partsのポケット付きEシンクや、ワイヤーシェルフを使って造作しました。
面材はラワン合板のオイル仕上げ。奥さまが選ばれた明るい色のタイルとの色合わせが絶妙です。
シンク下はオープンにしてゴミ箱置き場に。食洗機とコンロの間にはオーブンレンジを置く棚を設け、コンロ下には鍋やフライパンがさっと取り出せるようワイヤーシェルフを取りつけました。
使い勝手がよくて、軽快なこの家らしいキッチンです。
仕切りは最小限にした明るい2階(撮影:Akihiro Furuya)
こちらは2階。吹き抜けに面した腰壁には、子どもたちのためにスタディコーナーを設けました。その先が、子ども室です。
まだ個室が必要ない時期なので、あえて仕切らず、公園のように走り回れる場所に。
家族それぞれが思い思いに過ごせる、“ベースキャンプ”のような住まいが完成しました。
株式会社BUILDERS(ビルダーズ)
神奈川県葉山町を拠点に活動する、設計事務所発の工務店。元宮大工の木村倫志さん、中嶋恭也さん、左官職人の寺地英次郎さんらとワンチームとなり、建築の可能性やこれからの暮らしの在り方を日々模索している。 施工範囲は神奈川県全域(その他の地域は要相談)。
〒240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色1790
℡:046-854-9008
HP: https://bldrs.co.jp/