大幸住宅可児工房(前編)

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々32〉
「『当たり前』を積み重ね、デザインも性能も妥協しない住み心地のよい家に」(前編)
株式会社 大幸住宅可児工房 代表取締役 畑佐 卓さん

大幸住宅可児工房・代表取締役の畑佐 卓さん

今回は、岐阜県可児市を拠点に、地域に根差した家づくりを展開している「大幸住宅可児工房」を、前後編の2回にわたりレポートします。

代表の畑佐卓さんが率いる同社は、住まい手のためになる「当たり前」のことを模索。結果、やらないことを明確にすることで、デザインと性能で妥協しない、真の意味で「暮らし心地」のよい住まいをつくり続けています。

前編では、代表にこれまでの道のりと、家づくりへの想いをインタビュー。積み上げてきた設計力で、周囲の自然を取り込み、自然素材と造作が豊かな暮らしを育む住まいを2軒ご紹介します。

さらに後編では、暮らしの満足度を大きく左右するキッチンにフォーカス。デザイン性と日々の使い勝手を両立させるために採用した、ekrea Partsの『キッチン・キット』の事例を4例、豊富な写真とともに紐解いていきます。

「何でもやれる」から「やらないこと」を明確にする工務店に

岐阜県可児市にある大幸住宅可児工房の本社

岐阜県可児市を拠点に、地域で高い評価を得ている工務店「大幸住宅可児工房」。2009年に代表に就任した畑佐卓さんは、パッシブデザインの心地よい設計を軸に据え、全棟の構造計算や「HEAT20 G2」レベルの断熱性能を標準化するなど、高い住宅性能を備えた住まいを提案し続けています。

「私が働き始めた頃は、従業員4人の小さな工務店。『何でもやれます』という感じで、木造でも木造軸組工法(在来)とツーバイフォー工法の両方をやっていました。来たお客さんの予算感を聞いて、予算が厳しいお客さんには、コストの安いツーバイのよさを伝えて勧める。予算がある別のお客さんには、在来のよさを伝えて勧める。そういう時代でしたが、二枚舌のような感じになっているのが嫌だなと思い、代表になってからは『自分ならどっちを選ぶか?』、『会社としていいと考えるものを、お客さんに勧める』ということをやっていきたいと、それまでやっていたことから『勧めていくのはこっちだから、これはやめよう』と少しずつ削いでいきました」(畑佐さん・以下同)

設計スタッフとの打ち合わせ風景

まず決めたのが、設計の自由度が高い「木造軸組工法しかやらない」ということ。さらに、「輸入材は使わない」ことを決め、すべての構造材を、輸入材から地元・岐阜県産の性能表示材に切り替えました。

「安い輸入材に押され、地元産木材の消費量が上がらないと、山も荒れていってしまいます。それなら、地元の工務店である私たちが使っていく必要があると思いました。そこで、岐阜県産木材の中でも、品質・性能がしっかりと担保された『性能表示材』を使うことを決めました」

あわせて、住まう人が長く快適に安心して暮らせるよう、耐震性能は最高ランクの「3」を確保し、「長期優良住宅」を標準にしています。

「長期優良をやり始めて、お客さんの安全、命を守ることを考えれば、耐震等級3を取らない道理はないなと。人の命を値踏みするようなことはしたくない。2はやめよう、3にしようと決めました」

この背景には、代表が入社時に抱いたモヤモヤを、これから入社する若い子たちに持たせたくないという思いもありました。

「スタッフには、気持ちよく自分の仕事をしてほしい。本当に人のため、地域のためになっていると胸を張れる仕事を残していかなければ、会社は続いていかないと思うんです。だからこそ、モヤモヤする選択肢を削ぎ落とし、『やらないこと』を一つひとつ決めていきました」

建築でできることは建築で。真摯に現場と向き合う

「もっと建築でできることは、建築でやろうよ」と、当たり前を整えてきた畑佐さんの想いは、住宅のデザインにも反映されています。

「私は、デザインを良くすることに、コストが必要だとは考えていません。それよりも大切なのは『気遣い』であり、これまでの経験や積み重ねから生まれる工夫のほうが多いはず。お客様が求めているのは、デザインと住み心地の良さがしっかりと共存する家。私たちが目指しているのも、まさにそういう家です」

では、自らの「当たり前」を徹底的に整え生まれた、大幸住宅可児工房の家を見ていきましょう。

事例1.暮らしを楽しむ「場」が随所に。居心地のいい書斎もある家

深い軒とウッドデッキが内と外を繋ぐ、美しい平屋の佇まい

まずご紹介するのは、夫婦と子ども2人、そして愛犬が暮らす、延床面積33.81坪の住宅。

深く出た軒と低い重心がもたらす落ち着いた佇まいは、まさに大幸住宅可児工房が得意とする平屋のスタイルです。

キッチン側から見たLDKとウッドデッキ

「住まい手からは、キッチンは家の中心に、そして、在宅で働く奥さんの書斎が欲しいという要望がありました」

そこで、LDKはキッチンを要にリビングとダイニングを配置したL字型に。そして、リビングからもダイニングからもアクセスできる、イタウバを張ったウッドデッキをプラン。このウッドデッキには、深い軒を設けたことで、夏の強い日差しも梅雨の小雨も遮り、アウターリビングとして心地よく過ごせます。

リビング側からウッドデッキ、LDK、書斎を見る

床はすべてナラの無垢フローリング。リビングとデッキの間には、大きな掃き出し窓があります。外のデッキスペースまでリビングのよう。実際の面積以上の開放感が生まれました。

「キッチン・キット」でつくった木の温もりのキッチン

キッチンには、ekrea Partsの「キッチン・キット」を採用。I型キッチン(W2550mm×D1000mm)の扉にはナラの突板を使用。ナラの無垢床と塗り壁のシックな空間によく馴染んでいます。

奥行きを1000mmにしたことで、リビング収納は約300mmの奥行きに。散らかりがちな小物や、プリント類、雑誌なども、この場所にしまえてすっきり。

そしてキッチンの奥には、奥さまが要望していた書斎があります。

キッチンの奥につくった奥さまの書斎

写真は、奥さまの書斎の内部です。面積は4.5畳。

「仕事をするのに気分が切り替わるといいなと思ったので、床を下げました。集中できるおこもり感が生まれたと喜んでいただいています。壁面の収納棚や木枠の室内窓もすべて造作しました」

暮らしを楽しむ「場」が随所に。そして、これからの暮らしにフィットした、居心地のいい書斎がある家です。

事例2.家事動線のよさも魅力。プライベートな中庭を囲むガレージハウス

美しい格子が目を惹く、端正な平屋のガレージハウス

次にご紹介するのは、夫婦と子ども2人が暮らす、延床面積32.31坪の平屋です。

「こちらの住まいは、『外からの視線が気にならないプライベートな庭をつくりたい』というお客様のご要望から、建物をL字型に配置。ガレージで庭とデッキを囲むプランに。さらにガレージの奥に格子を設けることで、外に対してはプライバシーを確保しつつ、室内からは心地よく外へと視線が抜けていくよう設計しました」

LDKは木とグレーの落ち着いた雰囲気の空間に

LDKは色味を抑え、グレーを基調にした落ち着きのある空間に仕上げました。

アイランドキッチンの腰壁にはモールテックスを施し、リビング側から見える部分には木工事で飾り棚を造作。既製品感を上手に隠したスタイリッシュなデザインが、空間の主役として美しく映えています。

ダイニング側からキッチンを見る

動線計画も秀逸です。キッチン奥の引き戸の向こうは、脱衣所兼ランドリールーム。そこからファミリークローゼット、洗面所を抜け、リビングへと繋がる便利な回遊動線になっています。

毎日の家事や暮らしが、ストレスなく心地よく過ぎていく住まいが実現しました。

造作したキッチンの腰壁は飾り棚にも!

リビングからもダイニングからも気軽に出入りできるデッキには、室内と同じグレーの大判タイルを貼り、まさにLDKと一体化したアウターリビングのような広がりに。心地よい風を感じながらの食事や読書、子どもの水遊びなど、多目的に暮らしを彩ってくれます。

プライバシーを守る設計の工夫、質感豊かな素材選びと造作。積み上げてきたデザインが見事に体現された一軒です。

後編に続く

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