「熊家」岩熊さん

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々22〉
「古民家を現代の技術で蘇らせ、100年快適に暮らせる家に」
熊家(岩熊宏二級建築士事務所)代表 岩熊 宏さん

岩熊 宏さん(茂原市にある展示場を兼ねた事務所にて)

今回ご紹介するのは、千葉県茂原市で古民家の移築や現地再生を手がける、熊家の岩熊宏さんです。

岩熊さんは、学校を卒業後、店舗設計の会社に就職。そこで、新建材でつくられ数年で壊され、リニューアルされていく現場に疑問を持つようになります。

その後、自然素材の家が得意な設計事務所に転職。そこで、古民家の魅力を知り独立。以来、「もったいない」の精神で、古民家を快適に暮らせる住まいに蘇らせてきました。

その数は200軒超。そこには職人の確かな造作の技も。詳しくレポートします。

〝もったいない〟が原点。店舗施工から民家再生の道へ

岩熊さんの事務所兼展示場

岩熊さんは学校を卒業後、店舗施工の会社に入社。しかし、安価で手軽に仕上げる材料でつくり、温もりが感じられない仕事に虚しさを感じるようになり退社。生まれ育った茂原に戻ってきました。

「もともと無垢の木の温もりが大好きだったんですよね。地元に戻ってきて、自然素材を得意とする設計事務所で働き始めました。そこに出入りしている基礎屋さんと、たまたま飲んでいたときに、古民家の移築の仕事もしていると、1枚の写真を見せてくれ、一緒にやらないかと言ってくれたんです」

これが運命の出会いとなり、25歳のときに設計事務所を辞め独立。「熊家民家再生」という屋号で設計事務所を開設し、以来31年間、民家を再生する仕事に携わってきました。これまでに手がけた古民家の移築・再生は200軒を超えます。

「原点は〝もったいない〟なんです。解体現場に入ると一瞬でクラッシュされゴミに。そういうのを見ていて、悲しいと思っていました。そもそも、体にもよくないはず。そんな気持ちでいたときに目にした古民家の写真に、〝これだ!〟と思い決意しました」

空き家となった古民家は今も各地に存在する

当初は、新潟の古民家を移築する仕事が多かったと言います。

「現地に行くと、とにかく1軒1軒違うから面白いんですよ。新潟は雪が深いから、木が育つのも遅くて目が詰まっています。その材で建てた家は、屋根に積もる雪に構造的に耐えられないといけないので、梁とかがものすごく太い。100年以上支え続けてきた煤を被った大きな梁を見て、ますますのめり込んでいきました」

再生工事中の古民家

一時期は、古民家を移築して住みたいという相談者が多く、年間7棟の古民家を移築していたと言います。

「まず相談に来られた方を新潟に連れて行き、売り物件の古民家を見せて、〝どれにします?これだったらこんなプランができます〟とお話します。移築する古民家が決まったら、解体して刻み直し、新たな場所で現地の大工と、建てるという流れです」

移築には結構な手間がかかります。申請するお役所には、「古民家」という概念はなく、「中古部材を使った新築」になるそう。それゆえ、現代の法規に合わせると、必然的に刻み直さないといけない部分がでてくるからです。

再生された古民家

今は、移築は減少。千葉県内の古民家を購入し、現地で再生させる仕事が多くなりました。

「アクアラインが開通して東京へのアクセスがよくなったことに加え、コロナ禍で働き方が変わったことが大きいですね。最近は若い子育て世代や、民家の魅力を知っている外国の方の相談が増えています」

予算感を聞くと、建坪40~50坪程度の古民家で、設計料込みで3000万円程度。200軒もの古民家を再生してきた経験で、状態の善し悪しを見極める眼は確か。ベテランの施工チームを3つ抱えているので大きなトラブルはなく、見積もりからオーバーすることはほぼないと言います。

「現地再生は、同じ土地での工事になるので、新たに電気や水道を引くような費用は、まず発生しません。その土地で育った木を使い、歳月を経た古民家は、躯体もしっかりしていて、耐震面から見ても問題のない物件が多いんです。ですから、比較的安く、古民家のよさを感じつつ、現代の暮らしに合わせた快適な家になります」

建坪8坪の事務所兼展示場は、古材に囲まれたワンダーランド

事務所兼展示場の入り口の土間と蔵戸

「移築再生」「現地再生」のほかに、岩熊さんが手がける仕事には、「古材を織り交ぜた新築・改築」があります。

「実はこの事務所兼展示場が古材を織り交ぜた新築です。このパターンは、建てることが決まった段階で仲間に連絡して、取り壊しが始まる古民家がないか聞きます。ここは、ちょうど群馬県の水上で解体している工事があると聞き、4トンのユニック(小型クレーンを積載したトラック)を借りて現地へ。これとこれちょうだいと、買って持ってきました」

事務所兼展示場の玄関土間の吹き抜け

上の写真の黒い梁は、そのときに持ってきた古材です。大黒柱はこの家のサイズでそのまま使うと圧迫感がでてしまうので、1階で止めて使用しています(写真下部に写っている柱)。

梁の根元部分はカットして、階段の1段目に使用

岩熊さんは、「捨てる部分がないという意味で、古民家はクジラと同じ」と言います

写真は、土間から2階に上がる階段の手前に置いた古材。本来の用途とは違いますが、ここに置くには絶妙な高さです。

欄間を手に持ち説明する岩熊さん

「これは、古い家で使われてた欄間です。立てかけて一輪挿しのように使っても面白いし、エアコンの目隠しに使うのもいいですよ」

2階の打ち合わせスペースは、天井を張らず古材の梁を見せた

事務所兼展示場は古材と、杉の一等材、ヒノキの床材を組み合わせて建てた新築。1階に事務所と吹き抜け、2階に打ち合わせスペースがあります。

展示場も兼ねているので、珪藻土の壁と漆喰の壁の違いが分かるよう、塗り分けているほか、古材と相性のいい建材のサンプルも用意されています。

建坪はわずか8坪しかありませんが、古民家や古材を使った空間の心地よさを体感できます。

キッチンにはekrea Partsのステンレスキッチン天板を採用

古民家再生で実現したL型キッチン

1件目は、リモートワークになったことを機に、都内のマンションからいすみ市に移住したご家族の事例です。

LDKは天井をはがし吹き抜けに。見事な梁が、アクセントになっています。キッチンは、夫婦ふたりがスムーズに作業できるようL型(リビング側W2550mm、壁側W2250mm×D700mm)に。

下台は大工工事でつくり、天板にはekrea Partsのオーダーステンレスキッチン天板を採用しました。

リビング側は床とも相性のよい杉の縦張りに

シンクのある側には、食洗機部分以外に、天板と同じステンレスの幕板(H177mm)を発注し、ビスで取り付けました。

その奥には家電置き場にもなるW550mmの木製カウンターを設けた、コックピットのようなキッチンに。

サブシンクが大活躍のキッチン

2件目は、古材を使った新築の事例です。住まい手は4人のお子さんと夫婦の6人家族。コンロの前に壁を設けた対面キッチンです。

来客が多い家なので、氷を入れて飲み物を冷やしておけるよう、サブシンクを希望。場所柄、ご近所からスイカをもらうこともあり、冷蔵庫には入らない大きなスイカを冷やしておく場所にもなっています。

オーダーキッチン天板を使えば、このようなダブルシンクのキッチンも簡単に実現できます。前の事例と同じく、シンク前にはステンレスの幕板を取り付けました。

ちなみにこのキッチンには、壁を利用した造作収納の工夫が。コンロの前にある壁の側面にある取っ手を引けば、調味料やお玉や菜箸が現れます。

古民家に馴染むシンプル壁付けキッチン

3件目は、古民家現地再生の事例です。住まい手は、100年超の古民家を購入して、壁付けのキッチン(W2700mm×D750mm)に。

下台は大工工事で住まい手の要望に応える

なぜ、キッチンにekrea Partsのオーダーステンレスキッチン天板を採用しているのか伺いました。

「再生した家で長く快適に暮らして欲しいと思うと、ステンレスになります。無垢の木の空間にも馴染みますし。それに私は、無垢材と言ってもいい素材だと思っていて、エクレアさんの天板は厚みもしっかりあるので、よりその印象が強い。そして、サイズの自由度があるのも魅力に感じ、古民家再生のキッチンに採用しています」

ステンレスのオーダーキッチン天板は、岩熊さんの古民家の再生、そして、快適な暮らしを実現する、大事なパーツといえそうです。

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