株式会社石田伸一建築事務所(SIA inc.)

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々21〉
「100年前の住宅に学び、長く快適に過ごせる家をつくり続ける建築家」
株式会社石田伸一建築事務所(SIA inc.)代表 石田伸一さん

ノマド建築家として活躍する石田伸一さん

今回ご紹介するのは、新潟県を拠点に活動する「石田伸一建築事務所(SIA inc.)」代表の石田伸一さんです。

石田さんの原点は、子どものころ育った築130年の古民家。その生活体験から「100年前の住宅に学び、100年後のスタンダードをつくる」という、設計思想にたどり着きました。

地材地建を目指し、地元・魚沼杉の製材所を継承、大工を育成する会社も設立。そして、今、建築が風景となるまちづくりにも挑戦しています。

今、注目の「林業建築家」が考える、心地よさと愛着がずっと続く家づくり、そして造作への思いを伺いました。

設計事務所の枠を超えて、製材所や大工育成も手がける建築家

林業を身近に感じてもらうためのワークショップも開催

石田さんは、一般的な建築家とはちょっと違います。スタッフが集まって仕事をする事務所も、手がけた住宅を詳しく紹介するホームページもありません。

また、建築家というと、おもな仕事は、住宅の設計にまつわる業務と現場監理ですが、その枠の外にある、製材所の経営や、大工を育成、まちづくりも手がけています。

UC Factory。山で伐採された丸太はここで製材される

「住宅建築会社を経て、2018年に設計事務所を設立しました。その後、お世話になっていた魚沼杉の製材所が廃業すると聞き、建築や山のことを考えると、地域から製材所がなくなってはいけないと手を上げました」(石田さん・以下同)

製材所から20キロ圏内の山で手作業で伐採

雪深い魚沼の山から木を伐採して、製材する工場という意味を込め「UC Factory(魚沼杉の工場)」という名称に。

「それまで他人事だった林業が自分事になりました。この貴重な経験をしたことで〝山から設計を考える〟ことを大事にしています」

今では、石田さんが手がける住宅や店舗、施設に、欠かすことのできない木材となっています。

MtRiverSeaで育った大工が地元の家を建てる

そして、2024年、今度は大工をしている専門学校時代からの友人と、同じ年の大工から「せっかく大工になったからには、弟子を育てたい」と相談され、「だったら、大工を育てる会社を作ろう!」と、MtRiverSeaを設立。

会社を設立することで、設計と施工の一貫体制が確立。大工不足に悩む地域の課題解決にもなっています。

この社名のとおり山から海に水が流れていくように、地元の木を使い、土地の風景に馴染む家を設計、大工や職人の手仕事で、長く愛着の持てる家づくりが可能になりました。

100年前の暮らしに学び、性能を今の時代にアップデート

今、挑戦中の街づくり「野きろの杜」

現在、所員は3名。それぞれ自宅で仕事をし、週に1回、会って進捗具合を確認するスタイルを取っています。

石田さんはこのメンバーで、住宅をメインに、店舗や宿泊施設など年間16のプロジェクトを展開。さらに工務店の設計支援やモデルハウスのプロデュースも行っていて、合計するとプロジェクトの数は年間45にもなるそう。

さっそく、その想いから生まれた建物を拝見していきましょう。

ウッドデザイン賞2025を受賞した野きろの杜の「Life Site野きろ」

そのなかでも、もっとも注力しているのは、新潟土地建物販売センター、アウトドアブランドのスノーピークの3社がタッグを組み、新しい街づくりを進めている「野きろの杜(もり)」です。

野きろの杜に立つ住宅「現代土間の家」

「テーマは〝森とまちをつなげ、人と人がつながる野遊びのある街〟です。100年後も美しい街並みになることを考え、建てる家は、地元の木を使った木造。隣地境界はブロックは禁止。できる限り柵や塀も設置しない、といったルールを決めています」

気持ちよさそうな「現代土間の家」の半外部空間

こちらの「現代土間の家」と名づけられた住宅は、土間スペースを外部に大きく開き、軒のある半外部空間を設けました。地域の人々とのつながりを深める〝場〟として評価を受け、2023年、グッドデザイン賞を受賞しました。

「現代土間の家」の内観

「目指したのは、温故知新、地材地建とエコロジーな暮らし。現代版の土間として、100年前の暮らしに学び、100年後のスタンダードをつくることでした」

古民家の土間を、現代の生活で多様に使える場としてアップデート。もちろん断熱性能も最新のレベルに合わせました。大きな開口を設けたことで、将来、電気自動車の駐車スペースにも使えそうです。

時間を巻き戻しながらフルリノベーションした古民家「陰影礼讃」

「陰影礼讃」の外観

自身のテーマは「100年前の暮らしに学び、100年後のスタンダードをつくること」と言う石田さん。その原点は幼いころ暮らしていた築130年前の古民家にあると言います。

「築130年の外壁に使われている材は、地元で育った無塗装の杉でした。60年以上メンテナンスしていませんが、経年美化して周囲の風景に、よく馴染んでいました。大工や左官の手仕事は素晴らしく、とても愛着を感じる家でした」

新建材でつくられた現代の家にはない、心地よさがそこにあると感じた石田さんは、100年前の暮らしの心地よさを学び、快適に暮らせるよう、性能を今の時代にアップデートした家を提案していこうと、心に決めました。

「陰影礼讃」の内観

写真は、2022年にグッドデザイン賞を受賞した住宅、「陰影礼讃」です。

「施主が購入した築60年ほどの古民家を、現代の技術を使い、時間を巻き戻しながらフルリノベーションして、築160年くらいの古民家にアップデートしました」

「陰翳礼讃」では、一部の照明を造作。家具はクライアントがヴィンテージものを購入した

築60年を築160年にアップデート?不思議に思われるかもしれません。

これは、いったん骨組みの状態にして、耐震・断熱補強を施し、窓はトリプルガラスにして、性能をアップデート。そして、西洋化の影響で、可能な限り部屋の隅々まで明るくしていた照明を、古来の美意識に則った「陰影」のある空間に変更したのです。

地元の材で、地元の大工と左官の手仕事で、これからもずっと暮らしが整う家に。まさに石田さんが掲げている「地材地建」「Long Loved Designで100年後も美しい風景をつくる」という思いの結晶です。

職人がつくるキッチンには、ekrea Partsの「キッチン・キット」も活躍

景色と会話を一緒に楽しめるキッチン

職人の手仕事が息づく家は、愛着が深まると考える石田さんは、極力既製品は使わず造作すると言います。

こちらは2025年にグッドデザイン賞を受賞した、長野県白馬村の一棟貸別荘のキッチンです。屋根と壁を一体化することで構造を強化。大きな三角窓から外の景色を取り込む、居心地の良い空間です。

キッチンは職人の手でフル造作しました。ともに造作したダイニングテーブルと作業台をつなげることで、調理する人も食事をとる人も、一緒に一緒に会話を楽しめる場ができました。

魚沼杉の柱や梁に囲まれたキッチン

「毎日使う、キッチンはとても大事な場所。ekrea Partsのキッチン・キットをベースに、その家に馴染む、使いやすいキッチンをつくることも多いんですよ」

そう言って石田さんは、キッチン・キットを採用した事例も見せてくれました。

まず1件目は、キッチン・キットの「Ⅱ型のシンク部(W2550mm×D720mm)」と「Ⅱ型コンロ部(W2550mm×D650mm)」を組み合わせたお宅のキッチンです。

キッチンの仕上げ材には魚沼杉の合板を使用

シンクのある対面キッチンのリビング側には、オスモ塗装をしたUC plywoodマホガニーを張りました。巾木の部分にも、同じ材を張ったことで一体感が生まれました。

グレーがかったオークの床材(ダストオーク)、と魚沼杉の柱や梁が相まって、温もりのある空間に。その中でキッチンがよく馴染んでいます。

シンプルな空間に馴染むキッチン

2件目は、シンプルなコートハウス。LDKの床材には県産の杉を使用。MtRiverSeaの大工が、中庭に向かって視線が広がるように斜めに張りました。

天井高を抑えつつ窓と天井を揃えることで、中庭に視線が抜けていきます。 キッチンは、「キッチン・キットI型(W2550mm×D650mm)」を採用し壁付けに。専用のステンレス扉セットと組み合わせました。

シンク下はオープンにしてゴミ箱置き場に。圧迫感を感じさせない、軽やかに仕上げたキッチンです。

壁付けキッチン+家電収納を兼ねた作業台を造作

3件目は、街の中心に近い場所に立つ住宅。周囲の視線が気にならないよう、敷地の形状に合わせて3つの箱をずらしながら中庭をつくりました。

こちらも「キッチン・キットI型(W2550mm×D650mm)」を採用し壁付けに。扉材には、UC plywoodマホガニーを張り、シンク部分に造作とタオル掛けを取り付け、下はオープンにしてゴミ箱を置くスペースに。

ダイニングテーブル(幅850mm)を造作。一方を作業台とつなげました。キッチンと高さを揃えた作業台があることで、家電の収納スペースも確保。作業しやすいキッチンになりました。

3件それぞれに、敷地条件やライフスタイルにあわせて造作した、〝その家らしい〟キッチンです。

最後に石田さんが、キッチン・キットを採用する理由を伺いました。

「キッチンパーツとして非常に優秀です。コストを抑えながらも、イメージ通りのキッチンを実現できる。そして何より、我々の手で自由にアレンジを加えられることが、メインで採用している大きな理由ですね」

地元の材を使い、長く愛される家を設計し続ける石田さん。その妥協のない家づくりに、キッチン・キットは欠かせないピースとなっているようです。

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