季節を身近に感じる空間と造作で、〝わが家がいい!〟と思える住まいに

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々15〉
「季節を身近に感じる空間と造作で、〝わが家がいい!〟と思える住まいに」
アトリエ24一級建築士事務所 代表 飯沼竹一さん

今回、ご紹介するのは、千葉を中心に活躍するアトリエ24一級建築士事務所の飯沼竹一さんです。事務所名にある「24」は、季節の変化を表す「二十四節気」から取ったもの。

家にいても自然の移ろいを身近に感じる、豊かな空間を提案していきたいという思いが込められています。

もうひとつこだわりは、使い勝手を追求した〝造作〟。飯沼さんがキッチンや洗面台を造作する理由と、実際に手掛けた住宅をレポートします。

公共建築からスタートしたことで住宅設計への思いが深まった

取材に伺った「金柑の実る住まい」のLDK

飯沼さんは大学卒業後、公共建築を得意とする設計事務所に入所。建築家を目指してスタートをきりました。

しかし、公共建築は関わる利害関係者が多く、突然横やりが入ることも。結果、当初の設計がいつの間にか変更されているという、苦い経験もしたと言います。

「会社や公共の建物の中にいると、外の天気も分からないこととかありますよね。そんなことにも疑問を感じていました。モヤモヤしていたときに、たまたま個人住宅を設計する機会があって…。住宅は、そこで暮らす〝人〟がいます。話をじっくり聞き、どんな暮らしをしいたか?どうすればずっと快適に過ごせるか?を考え、図面に落とし込んでいく作業は、とても楽しく、やりがいを感じました」

その後、手掛けた住宅は50件を超えます。それぞれに、四季の移ろいや自然を感じる、飯沼さんならではの設計が息づいています。

「金柑の実る住まい」の外観模型

今回はそのなかから、都市型のコートハウス「金柑の実る住まい」を訪ねました。住宅密集地でありながら、リビングのカーテンを閉めずに、季節を身近に感じられる住まいです。

満足度の高い家になったもうひとつのキーワードは〝造作〟住まい手もキッチンや洗面台を造作したことで、インテリアに馴染み使い勝手がよくなったと言います。さっそくご紹介しましょう。

カーテン不要!中庭の緑と空を取り込む2階リビングの家

階段を上がるとキッチンとダイニングが目に飛び込んでくる

伺ったお宅は、2人の娘さんと暮らす50代のご夫婦が、これからの暮らしを考えて建てた家です。

以前住んでいた建売住宅は、駅から遠く不便。また、キッチンがリビングから離れた位置にあり、家族から孤立しがちな間取りにも不満を感じていました。そこで、最寄りの駅から徒歩5分の土地を購入し、快適に暮らせる家を飯沼さんに依頼。

家づくりの要望は、以下の4つです。

1.子どもが独立したあとは、子ども室を賃貸にできるようにしたい
2.2階にLDK、主寝室、水回りを計画し、できるだけワンルームで生活したい
3.料理する人とリビングにいる人が一緒に過ごせる、オープンなイニングキッチンが欲しい
4.人目を気にすることなく、カーテンを付けなくても暮らせる家がいい

カーテンなしで過ごせる、明るいリビング

飯沼さんは、道路側を引き戸と壁で仕切ったコの字型のコートハウスを提案。メインの生活空間を2階にプランし、1階の中庭の両側に、将来、賃貸に出すことを想定した子ども部屋を設けました。

中庭にはシンボルツリーとして、ナツツバキ(シャラノキ)を植えました。初夏に白い花を、そして秋には紅葉を楽しめ、冬は落葉し光の井戸のような中庭に、暖かい日差しを届けてくれます。

この木が成長し、建って5年たった今では、2階のリビングからも楽しめます。

ダイニング側から見たキッチン

LDKの床にはカバの無垢板を使用。壁は、調湿・消臭効果が期待できる天然素材・エッグペイントの塗り壁にしました。

そのインテリアに馴染むキッチンは、ペニンシュラタイプに。背面に大容量の造作収納を設けたオープンキッチンは、調理しやすく孤独に感じることもありません。

キッチンの通路はW960mm。奥にはパントリーがある

キッチン部分は、本体と壁面収納部分の図面を飯沼さんが描き、工務店に見積もりを依頼。茨城の稲野辺木工所が製作しました。サイドパネルや扉材にはシナ合板を使用。オスモカラーを塗ることで、自然でマットな仕上がりに。

キッチンは奥のパントリー側にコンロ、ダイニング側にシンクを配置

キッチン本体のサイズはW2700mm×D800mm×H850mm。ワークトップには、ekrea Partsでも人気の「オーダー ステンレス キッチン天板」のバイブレーション仕上げを採用しました。

シンクは、使う洗剤やスポンジを出しっぱなしにしないよう、ポケット付きW800mmのシンクに。洗剤のボトルもスポンジもポケットの高さに収まっているので、リビング側からも見えません。

そして奥行きは、パントリーにつながる通路と、キッチン前の寝室への通路を確保するためD800mmに。

サイズやシンクを自由に選べるのは、オーダー天板ならではです。そして、ワークトップにモノを出しっぱなしにしない工夫はほかにも!

キッチン両サイドの幅150mmの収納が大活躍

キッチンの両サイドには、使い勝手抜群の収納があります。奥のコンロと壁の間の狭いスペース(写真左)には、調理中でもすぐに調味料が出せる収納を。手前のシンク脇(写真右)には、出しっぱなしになりがちな、まな板の収納場所を作りました。どちらも幅はわずか150mm!

さらに、シンクとコンロの間は、フロントオープンのBOSCHのビルトイン食器洗い機を設置。その横のガスオーブンとの間には、みりんや料理酒、しょうゆのボトル(1000ml、高さは約27㎝)がちょうど収まる収納を2段作りました。

「この場所にあると、料理の準備をしているときも、パッと出せてすぐしまえるのでとても便利です」(奥さま)

ワークスペースと一体化した背面収納は、使い勝手も抜群!

ワークスペースも組み込んだ背面収納は壮観!

キッチンの背面には、ダイニング側の壁まで伸びるW5300mmの壁面収納を設置。

キッチンの背面部分は食器や鍋などの収納場所と、家電置き場をプラン。その隣に梁まで伸びる3列の収納を設け、2列は取扱説明書や保証書類のほか、リビングで使う小物類を収納、残りの1列とワークスペース上部は仕事の資料などを収納しています。

この収納があることで、LDKに収納の置き家具は不要。行方不明になりがちな小物や書類も、定位置に収まっています。

炊飯器からご飯をよそうのもゼロ歩で完了!

炊飯器のすぐ横の引き出しには、お茶碗や箸・カトラリー類を収納、コーヒーメーカーの近くには、コップ類やカップ&ソーサーを収納と、使う場所に近い場所に収納を実現。使い勝手のいい収納が完成しました。

これも持っているモノの量と、日々の暮らしをヒアリングして造作したからこそ。

深沢直人デザイン「HIROSHIMA」のテーブルとキッチンの相性も抜群

使い勝手はもちろんのこと、カバの無垢床、ウォールナットのダイニングテーブルともよく馴染んだ、美しいキッチンです。

リビング側の収納は、薬やお酒のストックに最適の深さに

リビング側には両開きの収納が3つ!

リビング側にも収納を設けました。写真の手前から薬、お酒類、グラス類を収納する場所になっています。

リビング収納は浅いほうが出し入れしやすいケースも

棚板の奥行きは140mmしかありませんが、これらのモノがスッキリ収まるサイズです。

セーターの手洗いもラクな造作洗面台

リビングの隣にある、洗面洗濯室の洗面台も造作。木天板の上には置き型の洗面ボウルが。

「顔を洗う以外にも、ここでセーターの手洗いもします。平らな面積が広いので洗いやすいんです。深さもあるので、水もこぼれません」(奥さま)

工務店と木工所の連携で、クオリティの高い造作を実現

飯沼さんが描いたキッチンの図面

キッチンや洗面は造作することが多いという飯沼さん。それができる理由を伺うと…。

「確かに造作すると、描く図面は増えていきます。最初は負担に感じていました。しかし、ある程度数をこなし、バリエーションができれば、あとは以前描いたCADデータをアップデートするだけですから。ほかの詳細図同様に見積もり、発注、作るという生産工程から、必要不可欠なことだと思っています」

加えて、見積もり作成依頼する工務店が、いい家具屋とつながりを持っているかも大きいと言います。

「今回は佐久間工務店に施工を依頼、家具は工務店との付き合いの多い、稲野辺木工所が製作してくれました。図面の意図を汲んで、よりクオリティの高いものにしてくれました」

上の図面から完成した造作キッチン(撮影:松田哲也)

そして、造作する理由がもうひとつ。

「住まい手の要望を実現するには、造作したほうがいいと思っています。費用面からみるとピンキリですが、グレードの高い既製品と比べれば、家具屋にオーダーした場合でも、安くなる場合もあります。それに、仕上げ材の選べることで、空間に馴染ませられるとうメリットは大きいですね」

軽やかな空間にフィットした造作キッチンの例(撮影:松田哲也)

今回の取材を通じて、自然素材に包まれ、季節や時間の移り変わりを身近に感じられる住まいは、〝造作〟というパズルを加えることで、さらに満足度が上がることを強く感じました。そして、設計、施工、家具製作、それぞれの分野で、うまく連携がとれれば、負担は軽くなることも。

飯沼さんが設計する新たな家。今から楽しみです。

表示件数
並び替え