設計力と木工の知識、そして大工の造作で、心地よい”ひだまり“のような家に

〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々13〉
「設計力と木工の知識と大工の造作で、心地よい”ひだまり“のような家に」
株式会社 ひだまり設計工房 代表取締役 山本明香さん

山本さんの自宅兼事務所「山暮らしの家」

今回ご紹介するのは、千葉県船橋市の小さな設計施工会社「ひだまり設計工房」です。代表の山本明香さんは、大工である夫と二人三脚で、次々と「ひだまり」のような穏やかで心地よい家を建てている、人気の建築士です。

自然素材にこだわり、造作することで「暮らし」に寄り添った住まいを実現する、その原点と家づくりへの思いを伺いました。

阪神大震災で自宅が被災したことがきっかけで建築の道へ

木々を眺めながら日向ぼっこができる自宅のウッドデッキ

山本さんは兵庫県神戸市生まれ。高校生のときに阪神大震災で自宅が被災し、役所から全壊指定を受けました。

途方に暮れていたところ、東京で建築士事務所を開設していた母方の親戚が、まだ新幹線が復旧していない状態にもかかわらず駆けつけてくれ、修理を対応してくれる施工会社を手配し、監理をしてくれました。

まだ高校生で、「人の役に立つ仕事」というと、医者や消防士といった分かりやすい仕事しか浮かばなかった山本さん。その様子をそばで見聞きしたことで、「建築士という仕事は、こういう災害が起こったときには、人の役に立つ仕事なんだ!それに平常時の仕事も、クリエイティブで楽しそう!」と、感動。建築士になることを決意しました。

その後、奈良女子大学の生活環境学部に進学。大学院卒業後、モノづくりを経験し勉強しようと職業訓練校で、木工の技術を学びます。

工務店に就職したことで、目指す仕事のカタチが見えてきた

ウトウトしていて気持ちよさそうな愛猫

大学、大学院で住宅の維持管理と環境工学の調査・研究、職業訓練校で木工の技術を習得し、工務店に就職。現場監督を体験し、職人や施主と直接やり取りすることで、目指す仕事のカタチが見えてきたと言います。

家づくりの最初の相談から関わり、図面を引き、施工の現場に立ち会い、完成した家を施主に届ける。このスタイルが、今の「ひだまり設計工房」へと、つながっています。

ちなみに、なぜ、「ひだまり設計工房」という名前にしたか伺うと…。

「“ひだまり”は、日差しの中でも、穏やかで柔らかな感じですし、ちょうど飼っている猫が、そんな日差しの中で日向ぼっこしてウトウトしていて気持ちよさそうだったので、なんだかそんな雰囲気の家づくり、会社にしたいと思って決めました」

そして、「ひだまり」のような家が、次々と生み出されていきます。さっそくご紹介して行きましょう。

手触りのいい造作と杉の木床に包まれた山本さんの自邸

玄関から奥のキッチンを見る

まずは山本さんの自宅兼事務所「山暮らしの家」。いちばん最初にご紹介した外観の家です。夫婦共通の趣味が山登りということで、簡素な山小屋をイメージして設計しました。

床には杉の無垢材を使用。暑い夏もサラッとしていて、冬はほんのり暖かく、家にいるときは裸足で過ごすことが多いそう。

キッチン側から玄関土間を見る

家具は置かず、収納はすべて造作。左手のテレビカウンターは、ダイニングスペースまで伸ばして、ベンチとしても使えるようにしています。

そして、カウンターの下は、リビングで読みたい雑誌や、おやつ・細々したものの格好の収納場所になっています。

自邸のキッチンはekrea Partsのキッチン・キットで造作

I型キッチンとカップボードを横並びにした壁付プランに

キッチン本体には「キッチン・キット」のI型キッチン(W2600mm×D650mm)と、カップボード(W1950mm×D650mm)を採用。横並びにして壁付にしました。

幅はトータルで4550mm。扉材にはオーク材の突板を使用し、真鍮の取っ手を付けたキッチンは、主役級の存在感です。

窓側W600mmの部分はオープンにして、ハイスツールAmba(アンバ)の定位置に。その横のコンロとの間には、W450mmのキャビネット(3段)を3つ並べました。

シンク下は、ゴミ箱が置けるようオープンに。シンクの横は、一時置きのスペースとして広めにとり、冷蔵庫との間にW300mmのキャビネットが組み込まれています。

適材適所に収納を設けた使い勝手のいいキッチンです。

パントリーのあるキッチンの奥からダイニングを見る

「大きな家ではありませんが、キッチンを対面ではなく壁付にすることで、キッチンの通路となるスペースを、ダイニングに取り込め、広くできました」

ダイニングに面した食器棚の裏側にはパントリーがある

ダイニングに面した壁には造り付けの食器棚を設置。この食器棚が、奥にあるパントリーと冷蔵庫を目隠しする役目も。

「造作の食器棚は、上部収納の奥行きをできるだけ浅くし、圧迫感がでないようにしました。上部の吊戸棚にカップやグラスなど奥行きが必要でないものだけを収納。そして、奥行きが必要なお皿などは、カウンター下に収納しています」

住まい手の楽しい暮らしが伝わってくるキッチン事例

ダイニングテーブルは対面キッチンと横並びに

山本さんはマンションのリノベーションも数多く手がけています。その中から、写真からだけでも、楽しい暮らしが伝わってくる2つのキッチン事例をご紹介しましょう。

まず1件目は、フルリノベーションすることを前提に、物件探しの時から相談を受けていた事例です。

ごく普通のマンションの間取りを、キッチンを中心に、引き戸で仕切ることで、家全体が緩やかにつながり、回遊できる間取りに。

自然素材にこだわり、杉の無垢床と珪藻土の壁天井に包まれた、心地よい空間になりました。

キッチンは、「キッチン・キット」をベースに造作

キッチンには、キッチン・キットI型タイプを使用。杉無垢板の扉、真鍮の取っ手を組み合わせました。コンロ前はセラドン色のタイル貼りに。目地色をグレーにしたので、汚れても目立ちません。

リビング側からキッチン・ダイニングを見る

写真は、対面キッチンに面したカウンター。キッチンと同じ高さにして、コンロ前と同じタイルを貼っています。

このカウンター下には、幼い子どもでも手が届く高さに、本のディスプレイ棚を造作。自然とお片付けする習慣がつき、リビングのインテリアにもなっています。

天板も木のシンプルな家具のようなキッチン

そして2件目。こちらは、新婚の夫婦の暮らしを想定したマンションリノベです。

ダイニング側からリビングを見る

天井表しにしてダクトレールの照明を設置。家具工事で木天板のキッチンを作りました。このようなキッチンを作れるのも、木工の技術を習得した山本さんならではです。

キッチンや洗面、収納…造作することのメリットは大きい

   

キッチン・キットなら面材を仕上げ材と揃えることもできる

山本さんは、造作することのメリットは大きいと言います。

いちばんの理由は、適材適所にモノの「住所」を作れる→生活がしやすい・暮らしやすい→暮らしを楽しむことができる、といういい循環が生まれること。

「コスト面でも、既製品もそれなりのモノはそれなりの価格となりますが、弊社は現場で大工さんが作りますし、設計の対応も私がするので、トータルではコスパがよいと思います」

ただし、造作は、既製品のように現物が見られないので、住まい手に理解してもらうのに苦労する面もあります。

そういう場面でも、あらかじめ選択肢が用意されているキッチン・キットは、住まい手もイメージしやすいので、提案もしやすいそうです。

大工仕事は夫が、現場の管理業務は山本さんが担当

キッチンを造作中の工事現場風景

「ひだまり設計工房」では、基本的に大工仕事は夫が担当。そして、現場の管理業務は山本さんが担当しています。

「施工については、たまに夫婦だから手抜きをするのでは?という質問を受けることもあります。しかし、その責任を問われるような過失があれば、『一級建築士』としての監理責任が問われるだけでなく、夫婦としての信頼関係も損なうものなので(笑)、そこはむしろ、信頼いただけるかと思っています」

設計も手掛け現場監理も一人で担当しているため、年間でこなせる量は、新築・フルリフォームで年間1~2件と、小規模のリフォームで2~4件ほどだそう。

「ご相談のタイミングよっては、お待たせすることもありますが、その分、じっくりと丁寧に、住まい手の家づくりに並走いたします」

設計力に加え、木工の深い知識と、夫の造作の確かな技術がある「ひだまり設計工房」。あなたの理想の家を実現する、よき伴走者になるかもしれません。

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