自然にある素材を使うことで、主張しすぎず長く愛着の持てる家になる
〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々④〉
「自然にある素材を使うことで、主張しすぎず長く愛着の持てる家になる」
西下太一建築設計室 代表 西下太一さん

西下太一さん(アトリエ兼自宅「星岡の家」にて)
今回ご紹介するのは、愛媛県松山市を中心に活躍する建築家、西下太一さんです。
材木屋を営む家に生まれ、幼い頃からものづくりが大好きだったと言う西下さんは、自然な流れで建築家の道へ。数多くの名住宅作家を輩出してきた東京藝術大学を卒業し、故郷・愛媛で設計事務所を立ち上げました。
住まい手にとって、設計する家がずっと心地よく暮らせる「器」になるよう、大事にしていること、そして造作について伺いました。
地元・愛媛県で、住み心地のいい「木の家」を設計し続ける住宅作家

自宅に併設したアトリエ
西下さんは現在37歳。10年前に故郷・愛媛に戻り、西下太一建築設計室を立ち上げました。
実家は材木を扱う家。子どもの頃から木に親しんできたことで、自然な流れで建築家の道を志したと言います。
「材木が身近にあったことで、樹種それぞれの特徴や、木の知識は自然と身に付きました。そのことを活かしてデザイン、構造、コストについて、総合的に考え設計できていると思います。また、兄が材木屋の社長なので、独立した今も、よき相談相手になってくれています」

西下さんと所員の皆さん(自宅の2階にあるバルコニーを背に)
「スタッフは5名。年間10棟前後の設計を行っています。部分的に鉄骨やRCを採用することがありますが、すべて木造です」
暮らしの器が美しく古びてくように、住むほどに愛着の深まる家は、住まい手の共感を呼び、県外からの依頼もあるそうです。
住まい手に尋ねるのは「これからどんな暮らしをしたいか?」

アトリエ併設の自邸「星岡の家」の外観
「家づくりは、まず“感じる” ことからだと思っています。ですから、家づくりの相談に来られた方には、自宅をご案内しています。欲しいものは、家という“かたち”ではなく、家族と過ごす穏やかな時間、心地よい室内環境による安心感など、形にならないものの中にあることを感じてもらいたくて」
案内して何かを感じ取ってもらったところで、西下さんは「これから家族で、どんな暮らしがしていきたいか」を尋ねるのだそう。
「まずこの感覚を共有できれば、ブレることのない芯ができ、設計を進めていくにおいても、家ができてからの暮らし方においても、よい作用が働くと思っています」

「星岡の家」のLDK。バルコニーの先に緑が広がる
自宅である「星岡の家」は、延床面積104.82㎡(31.76坪)。住居部分は約27坪という、決して大きな家ではありません。
玄関を入り、トップライトの光に導かれるように階段を上がると、緑と光に包まれたLDKの空間が広がります(写真)。
床はカラマツの無垢フローリング、壁と天井は自然な色味の白土の左官仕上げ。そして造作したキッチンやダイニングテーブルも加わり…。素材の組み合わせと手触りのよさに、ずっとここにいたいと感じる心地よい空間です。
「よく使う素材は、タモ、杉、カラマツ、桐、アピトン合板、白土(左官仕上げ)です。主張の強い素材ではなく、落ち着きのあるニュートラルな空間づくりを担ってくれています」
キッチンも家具も建物自体も主張しすぎない素材で

ダイニングテーブル越しにキッチン、階段の吹き抜けを見る
西下さんが設計で心掛けているのは、家具も建物自体も主張しすぎないということ。そして、そのことは人工的な素材ではなく、自然にある素材を使うことで実現できると言います。
自邸でも、ダイニングテーブルやソファ、そしてキッチンや壁付の収納の面材にも、木目の美しいタモ材を使用しています。
キッチンを造作するにあたっては、ekrea Partsのキッチン・キットを採用するケースも多いと言います。その理由を伺うと…。
「セミオーダーということで価格的に、住まい手に提案しやすい。それでいて洗練されたデザインの設備を合わせることで高級感も出ます。また、面材を自由に変えられるので、私がデザインする空間に調和するので、住まい手の満足度も高いですね」
最後に西下さんが造作したキッチンを3つご紹介します。

まず1件目。こちらは6人のご家族と、両親の仕事場を兼ねたお宅です。平屋部分にLDKを配置。デッキや庭に繋がる大きな開口を設けました。
ステンレス天板のⅡ型キッチンには、タモ材を使用。木の温もりに包まれた空間に、よく馴染んでいます。

ダイニングはキッチンと横並びのプラン。コンロのある壁側のキッチン部分と同じ奥行きでつくったカップボードを、ダイニングテーブルの背後まで連続させました。
収納もたっぷり。居心地のよさだけでなく、暮らしやすさもかなえました。

2件目は、リビング・ダイニング、そして3畳の畳間(写真奥左)が庭を囲む家。家族4人が、小さくた豊かな「庭」という場所を中心に、それぞれの居場所を見つけて過ごしています。

キッチンと繋がるダイニングは、庭を愛でる特等席。
既成の人工的なキッチンではなく、造作した家具のようなキッチンしにたことで、LDKが優しく居心地のよい空間になりました。

そして3件目。こちらは、谷あいの緑あふれる里の中に立つ平屋です。
デッキへと出られる掃き出し窓の窓前には、あえて小上がりを設けました。そこは、飾り棚や収納になり、また、集う人の腰掛や、子どもの勉強机にもなる場所になっています。
デッキから一段下がることで、外の自然と向き合いながらも、穴倉に居るような安心感が生まれました。

キッチンは壁付に。ダイニングとの間にある造作したカップボードは、立ち上がりをつくり、リビング側からキッチンが見えないようにしています。
同じく造作した吊戸棚は、扉を付けず食器の出し入れがしやすいように。造作することで生まれた、使い勝手のいい、美しいキッチンです。
いずれの家にも、自然にある素材を使いキッチンまで造作することで、ずっとそこに居たくなるような、愛おしい空間が生まれました。

西下太一建築設計室(にししたたいちけんちくせっけいしつ)
2012年、東京藝術大学美術学部建築学科卒業、都内の設計事務所を経て、2016年、西下太一建築設計室を設立。建主と共感しあえる関係をつくることで、理想の暮らしと共にある「家=空間」を導き出す。
〒790-0922 愛媛県松山市星岡4-20-10
HP:https://www.nishishita.com/